聞香杯の魅力 そしてお茶を楽しむということ
淹れたお茶の香を味わうための、細長い形をした器です
茶壺(急須)から茶海(ピッチャー)に注いだお茶をこの器に入れ、そこから飲杯(飲むための杯)に移します
飲杯で飲む前に、空になった聞香杯を鼻に近付け、そこから立ち上る香を味わうのです
しばらく嗅いでいると、香が次第に変化していきます
それを楽しむための器
最近は、聞香杯を使う人は少なくなってきたと聞きますが、私はお茶会の際には極力使うようにしています
楽しみがひとつ増えるような気がするから
淹れ方やお茶の種類にもよりますが、ぎゅっと丸まっていた茶葉が開ききり、煎が進むと、明確で華やかな香りは次第に弱くなっていきます
もちろん香がしなくなるわけではなく、やわらかな香りが続いていくのです
人間は贅沢な生き物ですから「最高の状態の香だけ嗅いでいたい」と思うかもしれません
でもこのうつろいも味わっていただきたいのです
中国茶は何煎も楽しめるお茶なので、一煎目、二煎目、三煎目・・・の煎毎のうつろい、そしてひとつの煎の中でのうつろいを味わうことができます
静かにお茶の時間を味わうことは、それだけで五感を研ぎ澄ませる効果があります
茶葉や茶水、茶器の色、ケトルから立ち上る湯気を視覚で
お湯が沸いたり、お湯を注いだりするときの音を聴覚で
茶葉や茶水の香を嗅覚で
口に含んだときの味わい、さらに、飲みこんだ後に口の中に残る余韻を味覚で
茶器に手や唇が触れたときの感触を触覚で
感じるうちに、今という瞬間に没頭して感覚が鋭くなります
聞香杯を使うと、その感覚が一層鋭くなる気がします
何煎も飲むうちに次第に五感が研ぎ澄まされて、聞香杯から立ち上る香が弱くなっても、香の変化を感じ取れるようになるのです
感覚が鋭くなり、常にうつろいゆく今この瞬間を味わうとき、私は、何とも言えない充足感を感じます
その感覚をシェアする人がいると、その充足感はさらに増すのです
私はお茶を淹れるとき、この感覚を大切にしたいと思っています
今この一瞬一瞬を感じて生きることは、丁寧に生きることにつながるから
【たまゆら庵】のたまゆらとは
「たまゆら」とは、ほんの束の間という意味で使われることが多いのですが、もともとは「玉響」と書き、玉と玉が触れ合って響く音をさす言葉です
私たちは過去に生きることも、未来に生きることもできません
今、この瞬間しか生きることができません
せめてその一瞬を、ひとりひとりがいい音を響かせて生きられる場になりますように・・・との願いを込めて「たまゆら庵」と名付けました